事前準備の大切さに思うこと

 大相撲秋場所は照ノ富士の優勝で幕を閉じたが、筆者は場所前から大関貴景勝の相撲に注目していた一人である。といのも先場所はかど番(負け越すと来場所は大関の地位から陥落する)で、しかも古傷でもある頸椎に爆弾をかかえたまま本番を迎えたからである。案の定筆者の不安が的中し初日から3連敗を喫してしまった。どうみてもこのままでは勝ち越しどころか、途中休場に追い込まれるのではないかと思ったくらいである。

 ところがどうして終わってみれば3連敗以降、人が変わったように鬼気迫る相撲で8勝7敗と勝ち越しを決め、大関の地位を辛くも死守した。

 「立ち直ったのは何が要因なのか」の記者の質問に対し、貴景勝の答えがまたよいではないか。「人間なので体の調子がいいときも悪いときもある。できる準備を毎日している」と冷静に答えていた。まだ弱冠25歳の若者がこの発言である。すごい力士である。決して体格に恵まれているわけでもなく、多彩な技もあるわけではないのに、大関まで昇りつめたのは、この心身の強さ、たくましさが全てであると思っている。

 この貴景勝の発した言葉ですぐに思ったことは、自分自身の仕事に置き換えたらどういうことになるのかだった。

 過去を振り返ってみていい仕事ができたと思えるのは、やっぱり事前準備を真面目にこつこつと着実にやってきた仕事に多い。それは多分仕事に対して未経験(未知)の場合や、難しい案件のケースほど恐怖心や不安にさいなまれるから普段よりも余計に入念に準備をしたからだろう。そうやっているうちに不安が解消され何か自信めいたものが湧いてくるから不思議である。

 逆に今まで経験したことのある仕事は、妙に変な自信があって、油断したわけでもないのだが少々高をくくって思わぬ墓穴を掘ってしまうことも度々あった。仕事への向き合い方というのは本当に難しいものである。

 皆さんの仕事でも貴景勝の言葉のように事前準備の大切さを感じている人も少なくないのではないか。例えば、製造業などでは「段取り八分」ということをよく聞く。また、飲食店は仕込みに時間をかけるし、作家は綿密な下調べや現場取材をして原稿を書いている。簡単そうでいて実は継続するのが難しい。いい仕事をするためには、この極めて地味だが大切な事前準備を地道にやるほかない。