チームワーク(一体)の勝利

 侍ジャパンはワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)で優勝を果たした。常にファンから優勝を期待されながら日の丸を背負って戦う選手にとっては、それがもの凄い重圧となり、悲壮感につながることもある。

 だが今回のチームにいたってはそれが無縁だったようである。その象徴となったのが、日系選手として初めて日本代表に選出されたラーズ・ヌートバー選手(カージナルス)が持ち込んだ、こしょうをひくパフォーマンス「ペッパーミル」だ。塁上やベンチで両拳をぐりぐりさせるあのポーズである。

 この喜びを共有するパフォーマンスは、チームの一体感を鼓舞、醸成する最高のアイコンとなった。

 一方、日本代表のなかで最年長であるダルビッシュ有選手(パドレス)、ベテランの存在も大きい。例えば、メジャー組で唯一参加した強化合宿の時から年齢の壁をつくらず自分から話しかけたり、後輩に変化球の投げ方やトレーニング方法など実戦的なアドバイスをしたりしたことや、チームに溶け込めずにいた一部の選手を自ら声をかけて開催した食事会の中心に据えるなど実にきめ細かな気配りをみせている。

 こうした影の努力を下支えしていたのが、「実力があっても個々が孤立していては、組織は機能しない。野球が好きで始めた原点に立ち返り、対等な立場で一緒にレベルアップしよう」という考えを伝えるためにとった行動であったという。

 事実、栗山英樹監督も「今回はダルビッシュ・ジャパンといってもいい」と最大級の賛辞をおくり感謝の意をあらわしている。

 栗山監督のように、ダルビッシュ選手に全幅の信頼を寄せチームをまとめさせ、ヌートバー選手のようなムードメーカーを代表に選出した手腕は素晴らしいとしか言いようがない。

 企業の組織においても、このような構図が構築されれば鬼に金棒に違いない。

つまり、資質や先見性の高い経営者、仕事ができ気配りもできる人間性豊かな管理者(中間管理職)、さらには前向きで明るい雰囲気づくりを担うムードメーカー的社員の存在が好結果を生むことになる。

 ヌートバー選手は2026年予定される次回大会での日本代表入りにも出場する意向を示し、大谷翔平選手と約束の証として時計を贈られ、その約束を守れない場合は時計を返すことを明かした。この現代の日本人でも忘れがちな浪花節的は行動・言動にも筆者のハートは鷲づかみにされたのである。