困ったことの解決➡新たなビジネスの誕生

 社会はイノベーションの積み重ねで出来上がっているといえる。イノベーションは技術革新のことだけだと誤解されていることがあるかもしれないが、イノベーションとは顧客にとって本当に価値のあるものを持続的に提供することと定義され、その範囲は非常に広い。

 イノベーションの基本的な考え方は、「困ったこと」の解決である。日常社会における課題を見つけ出し、課題を解決するためのアイデアを商品やサービスに落とし込むことである。

 課題は顧客のニーズ(=人々の欲求)であり、自動車やスマートフォンのようなものから、アプリケーションやお弁当の新商品まで、誰かの困ったことを解決してあげて少し幸せな気持ちにするくらいでも、人々の幸せ感の総量を増やすことに貢献できるのなら、それは立派なイノベーションといえるのではないだろうか。

 ただし、どのような素晴らしいアイデアやサービスでも、ボランティアで行っていたのでは、継続することは難しい。長期間にわたって顧客に良質な商品やサービスを提供し続けるという会社の使命・責任を果たしていくためにも、利益をしっかりと出し、事業として持続させることもイノベーションの必要条件である。

 本稿のテーマでもある「困ったことの解決➡新たなビジネスの誕生」における宅配ボックスの事例を紹介したい。宅配ボックスは、共働き夫婦の増加から生まれた課題を見つけ出して解決策を考案した好例である。

 背景にあったのは、宅配業者の労働負担の大きさ、再配達業務が起こす資源のムダ、消費者が宅配業者を待っていなければならない、といった諸問題がそこにあることを発見し、それらの改善策としてシンプルで安価な手段で課題解決を図ったのである。

 このように身近にある社会の課題に気づくことこそが、イノベーションの起点かもしれない。そういう意味で先ず求められることは、斬新なアイデアを生み出す創造性や、卓越したビジネス能力ではなく、むしろ人々の悩みや不安を敏感に感じ取る共感力が必要なのだと思う。

 皆さんの周りにも新たなビジネスにつながる困ったことがまだたくさんあると思っている。