応対のよい先ばかりを選んで訪問するな!

 今回は筆者が信用金庫勤務時代に経験した「営業」をテーマに話してみたい。立ち寄るたびにお茶を勧め、度々食事まで勧めてくれる取引先があった。本来は2週間に1度訪問する予定なのだが、その取引先は居心地がよいので、毎週2~3回は訪問するようになった。一方、新商品が出たので勧誘したいと思っても、なかなか相手をしてくれない取引先があった。新商品を説明するために訪問しても、来客の相手で精一杯で振り向いてもくれないから自ずと訪問回数も減っていった。この2つの取引先、皆さんならどちらを大切にするだろうか?普通は好かれていると思って優しい店に立ち寄りがちだが、要するにこの店は暇なのである。暇だからいつ訪問してもゆっくり応対してくれるのだが、暇=業績が芳しくないということになる。
営業をやっていると、嫌なことがたくさんある。そうした時、帰店する前にちょっと立ち寄って気分を晴らすには大切な取引先であるが、契約はあまり期待できない。反対にいつ訪問しても応対できないくらい忙しい取引先は、うまくアプローチができれば大きな契約に結びつく可能性が高いのだ。実はこうした先は頻繁に訪問し、会話が少なくても情報提供をしっかり行えば十分営業効果がある。
 そこで筆者が具体的に行ったことは、訪問時のちょっとした雑談から経営者や担当者が企業として、どんなことに興味や関心を抱いているかを掴み、そして次にその人たちが個人的に何に興味を持っているかを探るのである。帰店したら「興味を持っている」ことの情報を集め、次回訪問の準備をする。2回目以降の訪問では、その興味に関する話題だけに絞って話すのである。これを何度か繰り返しているうちに、先方は新しい情報を求めて自分を待つようになり、スケジュールが詰まっていても時間を空けてくれるようになった。
 そして、本来のビジネス上の必要性が生じた時には、先方から声をかけてくれるという具合になったのである。少々自慢話になってしまったが、相手の欲しがる情報を収集し訪問の度に提供することの重要性を述べたかったわけで、情報とは正に相手にとって役立つ「情宝」のことをいうのである。取引先にとっての情宝とはいったい何か、年の始めに考えてみることも重要な仕事の一つである。