技術伝承されないこと = 地域資源の損失

 今回のテーマは、技術の伝承について考察したいと思う。筆者がサラリーマン時代から長年利用してきたテーラーが昨年末で創業90余年の歴史に幕を閉じた。
 理由を聞けば、「やりたくても仕立てる職人さんが高齢となり、後継者がいない」ことだと言う。
 その店は豊富な品揃えと良心的な価格ということもあり、私を含め数多くのファンがいる。その証拠に店じまいとわかってからは、注文が相次ぎ、仕事に追われる日々だったという。実に残念である。
 このような事例は、他にも事欠かない。例えば、貴重な衣服を専門に扱うクリーニング店である。一見ごく普通の店構えなのだが、通常(地域)のクリーニング店とは異なり、受注のほとんどは全国からのオーダー(特注)である。家族との思い出が詰まった服や一生ものの高価な服などのシミや汚れを、その卓越した技術で完全な形にして顧客の元に届ける“知る人ぞ知る”クリーニング店である。その店も店主一代限りでいずれ終焉を迎える日は近い。
 このように長年培われてきた匠の技や伝統が次々と姿を消していくのは実に忍び難い。どんなにIT化、自動化が進んでも人間本来の温かみのある手づくり感や風合いはそうそう出せない。年配者のノスタルジーと思われるかもしれないが、良いものは後世に残さないと「もったいない」し、無くなってから初めて惜しんでも時すでに遅しなのである。
 上述のように地域には優れた技術や魅力を有する事業者が数多く存在する。近年、行政も事業承継や人材のマッチングに注力しているが、その魅力、課題など個々の実情をどれだけ把握しているのだろうか。もちろん行政、経済団体、金融機関などにも引き続き積極的な支援をお願いするところであるが、われわれも一消費者として、それらの魅力や価値を多くの人たちに声高に情報発信していくことが求められよう。特に若い人から「技術を習得したい、事業を継ぎたい」という気持ちを引き出していくのは、やはり消費者パワーが最も効果的である。近い将来この初夢を正夢に変えたい。